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2010年1月28日 (木)

NHK「遥かなる絆」

久しぶりに町へ出た。10日ぶりか。駅前の大きな本屋をのぞいたら「あの戦争から遠く離れて」(情報センター出版局)が平積みになっていた。奥付を見ると14刷、売れているんだ。隣には「『孫玉福(スン・ユイフー)』39年目の真実…」(同)も平積みになって並んでいた。前者が娘の城戸久枝さんが書いたノンフィクション。後者はご本人の城戸幹さんの手記だ。

城戸幹さんは、残留孤児として義父母に中国で育てられ、1970年に帰国した。その父親の苦難の半生をたどったのが久枝さんの著書だ。昨年4月にNHK土曜ドラマ「遥かなる絆」のタイトルで放送された。最初は見逃した回があったので年末の再放送で再び見た。

いつ見ても胸に迫り、たまらなくやるせないのが、孫玉福(幹さんの中国名、グレゴリー・ウォン)と育ての母・付淑琴(岳秀清)の牡丹江駅での別れのシーン。日本人の子を育てることで、人知れぬ苦労を重ねて来たであろう母、帰国がかなわず失意の日々を送る孫に、胸の内を隠して「生きているうちに日本に帰れ」と励ました母、そんな強い母が「帰らないで…」と泣き崩れる。まさに崩れ落ちるシーン。胸が張り裂けるとはこういうことを言うんだろう。力が抜け、プラットホームにへなへなと倒れてしまう岳秀清の演技が見事だった。

幹さんは、成長するに従い日本人であることを自覚、祖国への思いを募らせる。日本人であること明かしたために成績は合格ラインに達していたにもかかわらず、大学入試で不合格になってしまう。労働者として肉体労働に従事し、田舎から母を牡丹江に呼び寄せる。2人の生活を心の底から喜んでくれる母、親孝行だと友人たちも喜んでくれるが、祖国への思いは募るばかり。日本赤十字などに何百通も手紙を出すが
返事はない。

やがて愛媛の両親が判明、帰国の運びとなるが、折から文化大革命の嵐が襲う。いつ日本人として糾弾されるか、尾行がつく日々。摘発されれば命の保証もない。もちろん帰国など論外だ。

ようやく嵐が収まり、牡丹江駅のシーンになる。羽田に降り立ったのが1970年4月8日。城戸幹さんは28歳になっていた。よど号ハイジャックの8日後だった。

ハイジャック報道の陰に隠れてしまったのか、城戸さんの帰国は記憶にない。当時まだ、中国残留孤児という言葉はなかった。新聞は「満州孤児」と伝えていると久枝さんの本にある。まだ日中国交正常化前。中国に残された幼い子供たちのことは、何もわかっていなかった。

城戸さんは帰国して必死で日本語を覚え、勤めながら通った夜間高校で知り合った看護婦さんと結婚、久枝さんらが生まれ、日本の大学入学の夢は果たせなかったが、定年まで勤め上げた。

ドラマは、国費留学生として吉林大学(長春市)に留学した久枝さんが、父親の中国での歴史を辿っていくスタイルで、現在と過去が交差して進行する。久枝さん役の鈴木杏は、達者な中国語を操って好演、娘の留学に心配でたまらない現在の幹さん役の加藤健一の寡黙さが、いい知れぬ苦労を自然と物語っていた。

気になったのが、久枝が学友たちに日本の「あの戦争」の侵略などをなじられるシーン。「日本人は何も教えられていない」「どう思っているのか」と問いつめられるが、何も答えられない。中国に留学する人が、何も勉強してこなかったはずはない。満州国、日中戦争、南京虐殺などの基礎知識はあったろう。ドラマは何も知らないために、答えに窮してしまうように感じられた。原作では少し違う。一応のことはわかっているのだが、糾弾の凄まじさに、なまじの答えは発せられないのだ。両国の認識の隔たり、「侵略しました」と日本人がいってみたところで、それは単なる言葉で、中国の学生の怒りは、もっとイデオロギーの次元に向かっているので、言葉は無力なのだ。

まあ、これをドラマで表現するのは難しいだろう。

もう一つ、久枝と互いの母国語を教え合い、ボーイフレンド以上(恋人未満?)に親密になる大学院生との交流が、やや浮いていた。脚本家の意図としては、文革の悲劇や日本の発展に目を向けだした新しい世代を彼に込めていて、それはわかるのだが、その行方も描かないし、尻切れとんぼの感は否めなかった。

やはり原作には、この大学院生は登場しなかった。当時の中国の人々の一側面を託しているのだが、事実の重みの中に放り込むと、軽さは否めない。

とはいえこれらは、ささいなことで、あの戦争のその後を描いて心に響くドラマだったのは間違いない。戦争中も戦後もヒッッ氏で生き抜いた私たちの父母の世代の苦労と努力が基礎になって今、一応の平和を保っていることを忘れてはならないと肝に銘じよう。

DVDもポニーキャニオンから発売されているそうです。幹さんの「孫玉福…」も図書館で借りてこよう。


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